親の介護と仕事は両立できる?仕事を続けながら支える制度と選択肢|PTが解説

親の介護と仕事の両立|スーツ姿の猫が会社と家の間の道で立ち止まり、リスが家の方を指して励ましている水彩イラスト 介護
ケレン(現役理学療法士)
この記事を書いた人:ケレン(現役理学療法士)
病院で毎日、高齢の患者さんとご家族の「退院後の生活」に向き合っています。
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親の介護は、ある日突然始まります。多くの場合、「親が入院した」という電話から。

病院で働いていると、スーツのまま面会に駆けつけて、すぐ職場へ戻っていくご家族を毎週のように見かけます。「この後仕事なので」と退院カンファレンスの日程を何度も調整する方も少なくありません。仕事と介護の板挟みは、リハビリ室から見えるいちばんリアルな風景のひとつです。

この記事では、理学療法士(PT)として現場で見てきたことをもとに、仕事を続けながら親を支えるための制度と選択肢をまとめます。

「仕事を辞めて介護します」——現場で見た現実

「家に帰ってもらうために、仕事は辞めようと思っています」——そう話されたご家族がいました。ただ、その方はまだ60歳前。実際には、仕事を簡単には辞められない様子でした。

責められることでは、まったくありません。生活があり、ローンがあり、自分の老後もある。「辞めたい気持ち」と「辞められない現実」の間で揺れるのは、当たり前のことです。そしてもうひとつ、現場でよく聞く本音があります。

「なるべく支えてあげたい。でも、自分がつきっきりにはなれない

この気持ちに罪悪感を持つ必要はありません。むしろこの記事は、「つきっきりにならずに支える方法」の話です。

「介護離職」のデータが示す、辞めたあとの現実

介護を理由に仕事を辞める人は、年間およそ10万人います(総務省の調査で2022年は10.6万人)。いわゆる介護離職です。では、辞めた方々は「介護に専念できて、楽になった」のでしょうか。厚生労働省の調査で、実際に介護のために仕事を辞めた人に「辞めた後、負担はどう変わったか」を尋ねた結果がこちらです。

  • 精神面の負担が「増した」……5割超
  • 身体面の負担が「増した」……5割超
  • 経済面の負担が「増した」……約7割

つまり、介護のために辞めたはずなのに、辞めた後の方が苦しくなった——そう感じている人が多数派だということです。収入が減り(離職・転職後の年収は男性で平均4割減、女性で約5割減というデータもあります)、社会との接点が減り、介護が生活のすべてになる。仕事は、介護者自身を守る命綱でもあるのです。

意外と知られていない制度——「介護休業」を知っていますか

病院で毎日ご家族と接していると、「仕事柄、普段から休めるので」「何日までは休めます」——と、有休や職場のやりくりで時間を作っている方が多い印象です。お仕事に追われている様子を見るたびに、「こういう制度もありますよ」とお伝えしたくなります。

国が用意している制度が、あります。

介護休業|通算93日・3回まで分けて取れる

  • 家族1人につき通算93日まで休業できる(3回まで分割可)
  • 雇用保険から介護休業給付金(賃金の約67%)が支給される
  • 原則、休業開始の2週間前までに会社へ申請

大切なのは使い方です。93日は「介護をする期間」ではなく、「介護の体制を整える期間」と考えてください。入院中〜退院直後のいちばん大変な時期に、ケアマネジャー探し・介護保険の申請・住まいの整備・サービスの手配をやり切るための時間です。

👉 93日を「何に・どう使うか」は、こちらの記事で設計図の形にまとめました。
介護休業93日の使い方|3回に分ける設計図を現役PTが解説

介護休暇|年5日・当日でも取れる

  • 家族1人なら年5日(2人以上なら年10日)
  • 通院の付き添いやケアマネとの面談など、単発の用事に
  • 当日の申請でも取得できる(時間単位も可)

※制度の細かい条件は勤め先や雇用形態によって異なります。会社の就業規則と人事への確認を最初の一歩にしてください。

病院は「働きながら」に意外と対応してくれます

「カンファレンスも面談も平日の昼間でしょう?」と諦めていませんか。私の勤める病院では、土曜日のカンファレンスにも対応しています。開始時間の相談も可能です。

病院側から「お仕事は大丈夫ですか?」とは、なかなか聞けません。だからこそ、「仕事があるので、日程はこの範囲でお願いできますか」と遠慮なく伝えてください。退院支援の担当者は、そうした調整に慣れています。

いきなり「家で全部」にしなくていい——組み合わせられる選択肢

もうひとつ大切なこと。「病院からいきなり自宅で、家族が介護」だけが道ではありません。退院間際になって初めて知るご家族が多いのですが、間にはさめる・組み合わせられる選択肢がいくつもあります。

  • 介護老人保健施設(老健)……リハビリを続けながら、2〜3か月かけて自宅に帰る準備をする施設。ご本人の体を整える間に、ご家族は仕事を続けながら住まいと体制を整えられます。「時間を味方につける」選択肢です
  • ショートステイ(短期入所)……数日〜1週間ほどの宿泊。ご家族の出張や繁忙期、休息(レスパイト)に
  • 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)……「通い」「泊まり」「訪問介護・訪問看護」を月額定額で柔軟に組み合わせられるサービス。医療的なケアが必要な方にも対応できます
  • 自宅+デイサービスの回数を増やす……要介護度と限度額しだいですが、ケアプラン次第で週4回ほど朝から夕方までデイサービスで過ごす形も可能な場合があります。「日中はプロに、夜と週末は家族が」という分担です

どれを選べるか・組み合わせられるかは、要介護度や地域によって変わります。「仕事を続けたい」という前提ごとケアマネジャーに相談するのが、最短ルートです。

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介護休業の93日でやっておきたい「住まいの整備」。手すり・滑り止めなど、場所別にまとめています。

自宅退院がスムーズなご家族には共通点があります。「子どもの誰かしらが手伝える」「近くに住んでいて何かあれば行ける」——つまり、ひとりで抱えず、複数人で少しずつ。あなたが仕事を辞めて全部を背負う形は、実はいちばん危うい形なのです。

⭐ PTからひとこと

リハビリの立場から言うと、ご家族に一番お願いしたいのは「介護技術」ではなく「体制づくり」です。つきっきりの介護は、する側の体と心を必ず削ります。制度とプロと道具に頼ることは、手抜きではなく、長く支えるための戦略です。

よくある質問

Q. 介護休業と介護休暇、どう違うのですか?

A.介護休業はまとまった休み(通算93日・3分割可・給付金約67%)で、介護の体制づくりに使うもの。介護休暇は単発の休み(年5日、対象家族2人以上なら10日)で、通院付き添いやケアマネ面談などに使うものです。併用できます。

Q. 会社にはいつ、どう伝えればいい?

A.介護休業は原則2週間前までの申請なので、「介護が始まりそう」の段階で早めに人事や上司へ相談するのがおすすめです。「親が入院し、退院後に介護が必要になる見込み」と事実を伝えるだけで十分です。言いにくい場合も、就業規則の確認だけは先にしておきましょう。

Q. 一人っ子・遠距離で、頼れる人がいません

A.だからこそ、プロの体制を厚くします。介護保険を申請し、ケアマネジャーに「仕事を続けたい。つきっきりにはなれない」と正直に伝えてください。その条件で組めるプランを一緒に考えるのがケアマネの仕事です。遠距離の場合は、老健や施設も選択肢に入れて、罪悪感なしで検討を。

Q. 自分の手で介護しないのは、親不孝でしょうか?

A.そんなことはありません。実は現場では、「子どもには迷惑をかけたくない」「直接の介護は、子どもにはされたくない」という親御さん本人の声も少なくないのです。プロに任せることは手抜きではなく、親御さんの尊厳と、親子の関係を守る選択でもあります。あなたの役割は「介護の実行者」ではなく、「体制をつくる人」で良いのです。

Q. それでも「辞めたい」と思ったら?

A.一度立ち止まって、「辞めたい」のか「今の大変さから逃れたい」のかを分けて考えてみてください。後者なら、休業制度・サービス・施設で解決できる余地があります。それでも辞める選択をするなら、それも尊重されるべき決断です。ただし、収入と再就職の計画だけは立ててから。

まとめ|辞める前のチェックリスト

📝 仕事を続けながら支えるためのチェックリスト

  • ✅ 会社の就業規則で介護休業・介護休暇を確認した
  • ✅ 人事・上司に「介護が始まりそう」と伝えた
  • ✅ 介護保険を申請し、ケアマネに「仕事は続けたい」と伝えた
  • ✅ 病院に「仕事の都合」を正直に話し、日程を相談した
  • ✅ 老健など「時間をかけて帰る」ルートを検討した
  • ✅ 家族・きょうだいで「誰が・何を・少しずつ」を話し合った

仕事を続けることは、親不孝ではありません。
あなたの生活が立っていることが、長い介護をいちばん強く支えます。

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