病棟で働いていると、ご家族からよく聞かれる質問があります。「親の杖を買おうと思うんですけど、どれがいいですか?」——実はこのとき、商品の話の前に確認してほしいことが一つあります。
その杖、買わずに月100円台で借りられるかもしれません。

親の杖、そろそろ買おうと思って。ネットで探してるんだけど…

ちょっと待ってください。種類によっては、介護保険でレンタルできますよ
この記事では、杖や歩行器を「買うもの」と「借りるもの」に分ける考え方と、借りるまでの流れを、病院勤務の理学療法士が解説します。
先に結論
一本タイプのT字杖は「買う」(介護保険の対象外)。多点杖・歩行器・歩行車は「まず介護保険レンタルを検討」です。
種類別|レンタルできるもの・できないもの
| 種類 | 介護保険レンタル | 費用の目安 |
|---|---|---|
| T字杖(一本杖) | 対象外 | 購入 2,000〜5,000円前後 |
| 多点杖(4点杖など) | 対象 | レンタル 月100〜200円前後 |
| 歩行器・歩行車 | 対象 | レンタル 月200〜500円前後 |
| シルバーカー | 対象外 | 購入 5,000円〜 |
※レンタル料は自己負担1割の場合の目安です。負担割合や事業所によって変わります。また、要介護度によって借りられる品目が異なる場合があります。
「え、歩行器って月数百円で借りられるの?」と驚かれる方が多いのですが、これが介護保険の福祉用具貸与という仕組みです。介護保険は施設に入る人のための制度と思われがちですが、自宅で暮らしながら使えるサービスがたくさんあります。なお、シルバーカーと歩行器のどちらが合うか迷っている方は、シルバーカーと歩行器の違いで判断軸を解説しています。
理学療法士が「まずレンタル」をすすめる理由
費用の安さだけが理由ではありません。現場で見てきた実感として、大きいのは次の3つです。
① 体の状態は変わるから
リハビリで回復して「歩行器から杖」にステップアップする方もいれば、逆に支えを増やす必要が出てくる方もいます。歩行補助具は「今の状態に合っているか」がすべてなので、状態が変わったら交換できるレンタルは、それだけで大きな価値があります。買った歩行器が数か月で合わなくなってしまったケースも、実際に見てきました。
② 専門家が選んで、調整してくれるから
レンタルの場合、福祉用具専門相談員が自宅の環境を見ながら機種を選び、高さの調整までしてくれます。通販で買って「高さが合わないまま使っている」という方は本当に多いので、この調整込みという点は安心です。
③ メンテナンスも任せられるから
ゴムのすり減りや不具合があれば、事業所に相談して交換・修理してもらえます。「レンタルは誰かの使い回しで不衛生では?」と心配される方もいますが、消毒・点検・整備をしたうえで届く仕組みになっています。
「買う」を選ぶのはこんなとき
- T字杖・シルバーカーがほしいとき——そもそもレンタル対象外のため購入になります
- 要介護認定を受けていない・受ける予定がないとき——レンタル自体は自費でも可能ですが、保険適用なしだと割高になることがあります
- 本人の愛着を大切にしたいとき——毎日使うものなので「自分の一本」が歩く意欲につながる方もいます
T字杖を買うと決めた方は、選び方とおすすめをこちらにまとめています。
借りるまでの流れ|4ステップ
- 要介護認定を受ける——まだの場合は、お住まいの地域包括支援センターに相談するところからです。「杖のためだけに大げさでは」と思われがちですが、全く大げさではありません。申請から認定までの流れはこちらの記事で詳しく解説しています
- ケアマネジャーに相談——「歩くのが不安になってきた」と伝えれば、必要な用具を一緒に考えてくれます
- 福祉用具の事業所が自宅で選定・調整——実際に使う場所で試せます
- レンタル開始——月ごとの支払いで、合わなければ交換の相談ができます
入院からの退院時であれば、病院の相談員やリハビリスタッフが手配に関わることも多いです。退院前のカンファレンスで「歩行器はレンタルの手配をしましょう」という話が出たら、この仕組みのことです。
⚠ ここは確認が必要です
- 借りられる品目や条件は要介護度によって変わることがあります
- レンタル料は負担割合(1〜3割)と事業所で異なります
- 正確なところは、担当のケアマネジャーか市区町村の窓口でご確認ください
もう一つ、現場からお伝えしたいことがあります。外来などで医療保険のリハビリを続けている方は、要介護認定を受けるとリハビリの枠組みが介護保険側に移り、今までのリハビリが続けにくくなる場合があります。レンタル自体はとても良い仕組みですが、リハビリ中の方は、申請の前に主治医やリハビリスタッフに「介護保険を申請しようと思っている」とひと言相談してもらえると、行き違いが防げます。
よくある質問
Q. 入院中に病院で借りていた杖は、退院後もそのまま使える?
病院の杖や歩行器は院内用なので、退院時に返却します。退院後も必要な場合は、入院中からレンタルの手配を進めておくとスムーズです。遠慮せずリハビリスタッフや相談員に聞いてみてください。
Q. レンタル中に壊してしまったら弁償?
通常の使用での劣化や故障は、事業所側で対応してくれるのが一般的です。ただし契約内容によるので、借りるときに確認しておくと安心です。
Q. どうしてT字杖だけレンタルできないの?
比較的安価で購入しやすいことから、制度の貸与対象になっていません。逆に言えば、T字杖は数千円の買い切りで済むので、負担は大きくありません。
まとめ|状況別の選び方
| 状況 | 選択 |
|---|---|
| T字杖がほしい | 購入(対象外のため) |
| 多点杖・歩行器が必要/要介護認定あり | まず介護保険レンタル。ケアマネに相談 |
| 認定を受けていない | 地域包括支援センターに相談してから |
| 退院を控えている | 入院中に病院スタッフへ相談(手配してもらえます) |
歩行補助具は、転倒を防ぎ、外に出る自信を取り戻すための道具です。「買うか借りるか」で数千円〜数万円の差が出ることもあるので、購入ボタンを押す前に、一度この仕組みを思い出してもらえたらうれしいです。
杖まわりの記事は他にもあります。あわせてどうぞ。
制度のことで気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。それではまた、お大事に!


コメント