📅 2026年8月公開・2026年9月17日更新:4点杖・ロフストランド杖の使い分けを追加
杖を買った方、親に杖を渡した方から、よくこう聞かれます。「これで合っていますか?」——実は、杖は買ってからが本番です。持つ手、歩く順番、階段、高さ。どれもコツがあって、病院ではリハビリの時間に毎日お伝えしています。
この記事では、現役の理学療法士が、その内容をそのまままとめました。読み終わる頃には、「なぜその順番なのか」という理由ごと覚えられるはずです。
杖はどっちの手に持つ?|痛い方の「反対側」
いちばん多い質問です。答えは、痛い方の反対側の手で持ちます。右膝が痛いなら、左手です。
理由は、歩く時の体重の分担にあります。人は歩く時、左右の足に交互に体重を乗せます。杖を反対側の手に持つと、痛い足に体重が乗る瞬間に、杖が同時に地面について、体重を分け合ってくれるのです。痛い側の手に持つと、この分担ができず、せっかくの杖が働きません。
「利き手で持ちたい」という方も多いのですが、まずは反対側から試してみてください。
🏥 病棟でよく直す「持ち方」2つ
- 前後が逆——T字杖のグリップは前後で長さが違います。長い側が前に来るように持ちます
- 握り方——杖の柱(シャフト)は人差し指と中指の間に挟みます。指を全部手前にそろえて握っていたり、中指と薬指の間に挟んでいたりする方がよくいます。挟む位置が違うと、体重をかけたときに杖が手の中で傾きます

高さの合わせ方|肘が軽く曲がるくらい
買ったままの高さで使っている方が、実はかなりいらっしゃいます。合わせ方は簡単です。
- 靴を履いた状態で、まっすぐ立つ
- 杖の先を、つま先から前へ15cm・外へ15cmほど離れた位置につく
- 腕を自然に垂らして、手首の高さにグリップが来るように調整する
- 握った時に、肘が軽く曲がる(目安は20〜30度)くらいがちょうどよい高さです
高すぎると肩が上がって力が入りにくく、低すぎると前かがみになって腰に負担がかかります。屋内用の靴と屋外用の靴で高さが変わることもあるので、普段使う場面の靴で合わせてください。
歩き方の順番|「1・2・3」から始める
基本は3動作歩行です。
杖 → 痛い足 → 良い足
「1・2・3」と声に出しながら、このリズムで歩きます。杖と痛い足が先、良い足が最後です。
慣れてきたら、杖と痛い足を同時に出す2動作歩行に移ります。テンポが上がって、自然な歩きに近づきます。
もうひとつ、あまり知られていないコツが歩幅です。最初は、後ろの足を前の足に揃えるように歩きます(揃え型歩行)。安定してきたら、前の足を追い越すように歩きます(前型歩行)。いきなり大股で歩こうとせず、揃える→追い越す、の順で段階を踏むと安全です。
階段の上り下り|順番には理由があります


階段って、どっちの足から出せばいいのか毎回わからなくなるのよね

合言葉があります。理由ごと覚えると、もう忘れませんよ
階段は、順番を覚えるより理由で覚えるのがおすすめです。理由が分かれば、迷った時に自分で導き出せます。
原則はこうです。上にある足が、体を支えて踏ん張る。だから、良い足が常に上の段にあるようにします。
- 上り:良い足から上る。踏ん張れる足で、体を引き上げるためです(杖と痛い足は後から)
- 下り:杖と痛い足から下りる。良い足を上の段に残して、ブレーキをかけながら下りるためです
不安なときは、「一歩目だけ」試してみてください
手すりにつかまったまま、一歩目を出して、上ろう(下りよう)としてみます。順番が間違っていれば、いつもと明らかに違う感じ、または痛い感じがするはずです。実際に上りきらず、「やろうとしてみる」ところで留めるのがポイントです。体の感覚が、正しい順番を教えてくれます。

そして大事なことをひとつ。階段では、手すりがあるなら手すりを最優先にしてください。杖は段に引っ掛かる原因にもなります。杖は手すりのない側の手に持ち替えるか、状況によっては使わない判断もあります。
現場でよく見る「もったいない使い方」
リハビリの現場でよく見かける、直すだけで歩きが変わるポイントを3つ挙げます。
- 杖をつく位置が遠すぎる・近すぎる——遠くにつくと体が引っぱられ、近すぎると支えになりません。足の斜め前、体の近くに、なるべく垂直につきます
- 杖を出すタイミングがばらばら——リズムが崩れると、杖と体重がかみ合いません。「1・2・3」と声に出すと整います
- 高さが合っていない——買ったまま使っていませんか?上の合わせ方で一度確認してみてください
病棟でいちばん多いのは、「近すぎる」と「痛い方の足と杖が一緒に出ていない」の2つです。高さは「長いほうが頼れる気がする」と、長めのまま使っている方が目立ちます。ゴムのすり減りも見落とされがちなので、次の章で確認してください。
月に1回、先端のゴムを見てください
意外と見落とされがちなのが、杖の先端のゴムです。すり減りの確認は簡単で、底の溝が見えるかを見ます。円などの模様が刻んであるはずで、それがすり減って消えかけていたら交換のサインです。周りがボロボロにほつれていないかも見てください。
私は以前、患者さんの杖をお借りして体重をかけたら、つるっと滑ってしまったことがあります。「いざという時に、これでは支えられないと思います」とお伝えして、その場で交換をおすすめしました。ゴムは数百円の消耗品です。杖本体を買い替えなくても、ここだけ替えれば効きが戻ります。
交換用のゴムを選ぶ時に、ひとつ知っておいてほしいことがあります。先端のゴムには杖の太さごとにサイズがあり、合わないものは使えません。買う前に、お使いの杖の先端の直径(「内径◯mm」という表記)を必ず確認してください。
そのうえで、せっかく交換するなら、という選択肢をひとつ。先端を1点から5点に切り替えるタイプのゴムチップがあります。接地面が広がって安定するうえ、手を離しても杖が自立するので、倒れた杖を拾うためにかがむ回数が減ります。
✅ 楽になる理由:接地面が広がって安定する。手を離しても杖が自立するので、かがんで拾う動作が減る
⚠ 向かない・注意:杖の直径に合うサイズ確認が必須です(下に内径16mm用と19mm用を載せています)。砂利道など凹凸のある地面では、かえって接地が不安定になる場面もあります
価格は990円前後です(2026年8月時点・送料が別にかかる店舗もあります)。こちらはスリム杖(内径16mm)用です。
一般的な太さの杖(内径19mm)用は、こちらの6点タイプです。価格は1,533円前後です(2026年8月時点・離島など一部地域は追加送料がかかる場合があります)。
杖を使っても不安定なときは
最後に、大切な見極めの話です。
T字杖に体重を預けて歩いているのは、危険信号です。T字杖は、あくまでバランスを取るための道具で、体重を支える道具ではありません。ぐっと寄りかかるようになってきたら、道具が体に合わなくなってきたサインです。
その場合は、少し頼れる多点杖や、シルバーカー・歩行器への切り替えを検討してよい時期です。理学療法士に相談すれば、バランスや転倒のリスクを評価したうえで、その方に合った歩行補助具を提案してもらえます。通院先やお住まいの地域包括支援センターで聞いてみてください。
⚠ 「もう大丈夫」の自己判断が、実はいちばん多い
良くなってきた時期に、杖を使わずに動いてしまう方が病棟でも多くいます(歩行器でも同じです)。家に帰るとさらに使わなくなりがちです。杖をやめる・切り替える判断は自分でせず、外来のリハビリで理学療法士に一度見てもらってください。
🏥 理学療法士はこう見ています(切り替えの目安)
- 10m歩行テスト——杖を使って10mを歩く時間と歩数
- TUG——椅子から立って3m先で折り返し、座るまでの時間
- バランス検査(BBS)——立つ・座る・振り向くなど14項目。転倒リスクが高いとされる点数(56点満点で45点)を下回るかどうか
- 片脚立ち——片脚で立てない方には、杖よりも歩行器などをおすすめすることが多いです
どれも外来のリハビリで数分で確認できます。「杖のままでいいか」を聞くときの目安にしてください。
杖の種類ごとの特徴は、こちらにまとめています。
📎 高齢者の杖の種類と使い分け|T字杖・折りたたみ・多点杖をPTが解説
4点杖・ロフストランド杖はどんな人向き?|T字杖との違い
T字杖のほかに、先が4つに分かれた「4点杖(多点杖)」と、肘の下で支える「ロフストランド杖」があります。病棟でお伝えしている使い分けは、次のとおりです。
4点杖|ゆっくり歩く人で、杖にしっかり頼りたい人
先が4点で地面につくので、手を離しても倒れず、体重をしっかり預けられます。向いているのは、ゆっくり歩く方で、杖にしっかり頼りたい方です。
よく見る「もったいない使い方」が2つあります。ひとつは、4点杖なのに斜めについていること。4つの先が全部地面につかないと、4点杖の支えは働きません。もうひとつは、歩くのが速くて、4点の支えがほとんど効いていないこと。テンポよく歩ける方は、4点杖ではなくT字杖で十分なことが多いです。
ロフストランド杖|T字杖と4点杖の「間」
グリップを握り、前腕を肘あて(カフ)で支える杖です。支えの強さはT字杖と4点杖の間くらいで、手でしっかり握り込めるのが強みです。難点は、大きめでかさばること。そして肘あてに前腕を当てる使い方に慣れないと、かえって使いづらいことです。
病棟でよく直すのは、肘あてに腕が当たっていない使い方です。カフに前腕を通し、グリップと2か所で支えてはじめて、この杖の良さが出ます。
迷ったら、リハビリスタッフに「実際に歩いて」見てもらう
杖の種類は、歩く速さと、どれくらい体重を預けたいかで決まります。入院中なら、病院の杖で試してから選べます。介護保険では、4点杖とロフストランド杖はレンタルの対象で、T字杖は対象外です。借りられるかどうかは、ケアマネジャーさんに確認してください。
まとめ|理由ごと覚えれば、迷わない
- 杖は痛い足と反対側の手。体重を分け合うため
- 高さは肘が軽く曲がるくらい。買ったままにしない
- 歩く順番は「杖→痛い足→良い足」の1・2・3から
- 階段は「良い足が常に上」。上りは良い足から、下りは杖と痛い足から
- 手すりがあるなら手すり優先
- 先端のゴムは月に1回、溝を確認
- T字杖に体重を預け始めたら、道具の見直しを
- 「もう大丈夫」と自分で杖をやめない。切り替えは外来の理学療法士に相談
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「うちの場合、この杖の使い方で合っている?」——体の状態によって、合う杖の使い方や道具は変わります。理学療法士として、状況に合わせてお答えします。
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