「また転んだの?」――電話のたびに同じ報告を聞いて、心配を通り越して、怒りたくなったり、もう半分あきらめてしまったり。転倒を繰り返す親を持つ家族から、そんな声をよく聞きます。
理学療法士として高齢者のリハビリに関わるなかで感じるのは、転倒を繰り返す人には共通したパターンがあるということです。そして「注意する」だけでは、ほとんどの場合、繰り返しは止まりません。
この記事では、転倒を繰り返す原因と、家族が実際にできる対策を、現場で見てきたことをもとにお伝えします。
高齢者が転倒を繰り返す3つの原因
①認知機能の低下――「注意したのに、またやる」の正体
「危ないからやめてと言ったのに、また同じことをしている」。転倒を繰り返す方の家族から、いちばんよく聞く言葉です。
これは本人の性格や、やる気の問題ではないことが多いです。認知機能が低下すると、「危ない」という注意を覚えておいて、次の行動に活かすことが難しくなります。つまり、注意された瞬間は理解していても、いざ動くときにはその注意が抜け落ちてしまうのです。
だから、注意を繰り返しても転倒は減りません。本人の記憶に頼らなくても安全な環境をつくることが、現実的な対策になります。
「最近、同じ話を何度もする」「物忘れが増えた」など、転倒以外にも気になるサインがある場合は、こちらの記事も参考にしてください。
▶ 親がボケてきた?と感じたら確認したい5つのサインと家族にできること
②フレイル――転倒がさらに転倒を呼ぶ悪循環
加齢で筋力やバランス能力が落ち、心身が弱った状態を「フレイル」と呼びます。足の筋力が落ちると、ほんの数ミリの段差やカーペットのへりでもつまずくようになります。
こわいのは、転倒のあとに起こる悪循環です。
- 転ぶ →「また転ぶのが怖い」と動かなくなる
- 動かない → 筋力がさらに落ちる
- 筋力が落ちる → もっと転びやすくなる
転倒を繰り返す方の多くが、この悪循環のどこかにいます。「繰り返す」こと自体が、フレイルが進んでいるサインかもしれないのです。転倒した後の対応と再発予防については、こちらで詳しく書いています。
▶ 高齢者が転倒した後どうする?|PTが教える受診の判断と再発予防
③環境が整っていない――つかまる場所がない家
つかまる場所がない、床に物が多い、夜の廊下が暗い。環境がそのままなら、同じ場所で同じ転び方を繰り返すのは当然のことです。
実際、リハビリで患者さんの転倒歴を聞くと、「いつも玄関で」「いつも夜のトイレで」と、転ぶ場所が決まっている方がとても多いです。裏を返せば、その場所さえ変えれば転倒は減らせるということでもあります。
転倒を繰り返す人に共通する「動き方」
原因とは別に、現場で感じる共通点がもうひとつあります。転倒を繰り返す方は、とにかく、せわしなく動くのです。
- 立ち上がってすぐ歩き出す
- 手すりがあるのに「ちょっとだけだから」とつかまらない
- 電話や来客に小走りで向かう
本人にとっては何十年も続けてきた「ふつうの動き方」なので、注意してもすぐには変わりません。だからこそ、急いでもつかまれるものが手の届く場所にある環境づくりが効いてきます。
認知機能が低下した親が転倒を繰り返すとき
認知機能の低下(認知症と診断されている場合も含みます)があると、転倒の「繰り返し方」にも特徴が出ます。
- 夜中に目が覚めて、ここがどこか分からないまま歩こうとする
- 足腰が弱っていることを忘れて、ひとりで立ち上がろうとする
- 「待っていてね」と伝えても、その約束を保てない
こうした行動は、本人に「やめて」とお願いしても止まりません。記憶や判断に頼る対策(声かけ・約束・貼り紙)が効きにくいからです。これは本人のわがままではなく、認知機能の低下によるものです。
だからこそ、本人の意思に関係なく安全になる工夫が効いてきます。たとえば——
- ベッドから立つと家族に知らせる「離床センサー」
- 夜間も足元が見える人感センサーライト
- 立ち上がってもすぐつかまれる位置の手すり
「立たないで」とお願いし続けるより、「立っても転ばない」環境にするほうが、現実的で、お互いに楽になります。
それでも夜間の見守りが続いて、ご家族が眠れない日が増えてきたら——在宅で頑張り続けるかどうかを、一度立ち止まって考えるサインかもしれません。在宅介護の限界サインと、施設の種類と費用の考え方も、情報だけ早めに持っておくと心の余裕につながります。
病気が隠れていることも――何科を受診すればいい?
転倒を短期間に繰り返す場合、背景に病気が隠れていることがあります。
- パーキンソン病:歩幅が小刻みになる、歩き出しの一歩が出にくい
- 正常圧水頭症:足が上がらない歩き方、物忘れ、尿失禁が同時に出る
- 認知症:判断力の低下から危険な行動を繰り返す
- 薬の影響:睡眠薬や降圧薬などで、ふらつきが出ることがある
「何科に行けばいいの?」と迷ったら、まずはかかりつけ医に「最近、転倒を繰り返している」と伝えてください。必要に応じて神経内科・整形外科・老年内科などを紹介してもらえます。飲んでいる薬の見直しだけで、ふらつきが減ることもあります。
とくに、ここ数週間〜数か月で急に転ぶ回数が増えた・転び方が変わったという場合は、病気が背景にあるサインかもしれません。「歳のせい」と様子を見すぎず、早めに受診してください。
「また転んだ」に怒ってしまう前に
転倒を繰り返す方の家族は、半分あきらめたような表情をしていることが多いです。なかには、本人を強く叱ってしまって、あとで自己嫌悪に陥る方もいます。
でも、ここまで読んでいただいたとおり、転倒を繰り返すのは本人の不注意ではなく、認知機能・筋力・環境という「変えられる原因」の積み重ねです。
怒っても転倒は減りません。でも、原因をひとつずつ潰していけば、減らせます。責める相手は本人ではなく、原因のほうです。
家族にできる2つの対策
①転ぶ場所を特定して、環境を変える
まず「いつ・どこで転んだか」を思い出してみてください。玄関、夜のトイレへの廊下、寝室、お風呂――場所が特定できれば、対策はかなり具体的になります。
私が担当した方の中には、転倒で入院したことをきっかけに家の環境を一気に見直し、退院後はほとんど転ばなくなった方もいます。「入院してしまった」をマイナスで終わらせず、環境を変えるチャンスにできた例です。
場所別に、特に効果が大きい対策を挙げておきます。
- 玄関:手すりの設置、段差の解消、靴を座って履ける椅子
- 夜のトイレまでの廊下:人感センサーライト、足元の物をなくす、手すり
- 寝室:ベッドを少し低く、ベッド柵、立ち上がる側に手すり
- お風呂:滑り止めマット、浴槽の手すり、シャワーチェア
- リビング:カーペットのへり・電気コードをなくす、立ち座りしやすい椅子
場所別の対策は、こちらのまとめからたどれるようにしてあります。
▶ 【PT監修】高齢の親の転倒・介護準備まとめ|何から始めればいい?場所別ガイド
②一度しっかり、筋力と歩き方を立て直す
環境とあわせて効果が大きいのが、一度集中して筋力と歩き方を改善することです。デイケアや外来リハビリ、介護保険の訪問リハビリなどで、理学療法士が筋力訓練・バランス訓練・歩行指導を行います。
「歳だから仕方ない」と思われがちですが、高齢でも筋力は鍛えれば戻ります。フレイルの悪循環は、どこかで一度しっかり立て直せば断ち切れるのです。リハビリにつながる入り口としては、かかりつけ医への相談のほか、地域包括支援センターも利用できます。
まとめ|繰り返す転倒は「変えられる原因」の積み重ね
- 転倒を繰り返す3大原因は認知機能の低下・フレイル・環境
- 認知機能が低下すると「注意を次の行動に活かす」ことが難しくなる。注意の繰り返しでは減らない
- 「せわしなく動く」クセのある人は要注意
- 短期間に繰り返すなら病気が隠れていることも。まずはかかりつけ医に相談
- 対策は「転ぶ場所の環境を変える」+「一度しっかりリハビリで立て直す」の2本柱
ひとり暮らしの親の転倒が心配な方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。



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