浴槽のまたぎが不安な高齢の親へ|またぎ方・シャワーチェア・浴槽台を現役PTが解説

浴槽のまたぎが不安な親へ|またぎ方・シャワーチェア・浴槽台を現役PTが解説(猫とリスのイラスト) 介護

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ケレン(現役理学療法士)
この記事を書いた人:ケレン(現役理学療法士)
病院で毎日、高齢の患者さんとご家族の「退院後の生活」に向き合っています。
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📅 2026年9月公開

退院が近づいた頃、病院から「浴槽のまたぎが不安なので、家のお風呂を確認しておいてください」と言われた方へ。家に帰って浴槽の高さを測ってみたものの、「何cmなら大丈夫なのか」がどこにも書いていなくて困っている——そんな相談を、病棟でよく受けます。

先にお伝えすると、「何cmなら安全」という数字はありません。私たちが見ているのは別のところです。この記事では、現役の理学療法士が、退院前の家族に病棟でお話ししている内容をそのままお伝えします。退院に限らず、「親がいつの間にかシャワーだけになっている。湯船に戻してあげたい」という方にも、同じ考え方が使えます。

この記事の答え(先に3つ)

  • 見るのは浴槽の高さの数字より、股関節と膝がどこまで曲がるかと、つかまれる手すりがあるか
  • まず用意するのはシャワーチェアと浴槽台。バスボードは大げさになりやすい
  • 足の順番は気にしなくてよい。大事なのは手すりか浴槽のふちをつかんで、ゆっくり

退院前に見落としがちな「病院の浴槽」と「家の浴槽」の違い

病院のお風呂で入れたから家でも大丈夫、と考える方が多いのですが、実は病院と家では条件がかなり違います。

  • 手すり:病院の浴室では、またぐ位置に手すりがあるのがふつうです。家にはないことがほとんどです
  • 広さ:病院は介助者が横に立てる広さがあります。家の浴室は狭く、体の向きを変えにくいです
  • 浴槽の高さと深さ:病院には、またぎやすい高さの浴槽が多いです。家の浴槽は、とくに昔の家では縁が高く、中が深いものが多いです(最近の家では、そこまでまたぎにくい浴槽は少ない印象です)
  • :病院では、スタッフが横で見ています。家では一人で入ることが多いです

お風呂は、家の中の動作でいちばん難しいと言われます。理由は、「またぐ(片足で立つ)」「床が濡れて滑る」「転んだときに裸で体を守れない」「脱衣所と浴室の温度差」の4つが同時に起きるからです。トイレや玄関では、この4つが同時に起きることはありません。

そしてもうひとつ、浴槽の形も見ておいてください。

  • 足を伸ばせる長い浴槽(洋式タイプ。ユニットバスに多い):足を伸ばして入れる、という選択肢があるのは大きな利点です。立つときはどのみち足を深く曲げるか、手すりにしっかりつかまって立つので、長さ自体は心配いりません
  • 浴槽の中に段差(ステップ)があるタイプ:段差は座るときに使うものです。段差に腰かけてから体を沈められるので、座る動作が楽になります。この段差は腰かけるための場所で、踏むための場所ではありません。またぐときの踏み台にはしないでください

浴槽の高さを測ったら、その数字と一緒に、手すりの有無・浴槽の形・浴室の広さがわかる写真も撮っておいてください。数字だけでは判断できませんが、写真と数字がそろうと、病院のスタッフは「またげそうか」を判断しやすくなります。撮る場所の目安は退院前に家を整える|写真で送ってほしい場所にまとめています。

浴槽のまたぎ方|数字より「股関節と膝の曲がり」と「手すり」を見る

🏥 病棟で聞く声

「浴槽の縁は何cmなら大丈夫ですか?」と家族から聞かれることは多いのですが、数字ではお答えできません。同じ高さでも、またげる方とまたげない方がいるからです。私たちが見ているのは、足を上げたときに股関節と膝がどこまで曲がるか、そしてまたぐときにつかまれるものがあるかの2つです。この2つがそろえば、多少高い浴槽でも安全にまたげる方が多い印象です。

これは家族が判断しなくて大丈夫です。退院前なら、担当の理学療法士に「家の浴槽をまたげそうか」と聞いてください。入院中のリハビリで、またぐ練習をすることもできます。入院していない場合は、ケアマネジャーさんに「またぐのが怖いようなので、道具を相談したい」と伝えてください。福祉用具の相談員さんが浴室を見に来てくれることもあります。デイサービスや訪問リハビリを使っていれば、そこの理学療法士に見てもらうこともできます。

またぐ手順は、次の順番で練習してもらっています。

  1. 手すりをつかむ。手すりがなければ、浴槽のふちをつかむ。何もつかまずにまたがないこと。これが最初の約束です
  2. いつもの向き・やりやすい向きで、片足を浴槽に入れる。どちらの足からか、という順番は気にしなくて大丈夫です。家庭ごとに浴槽の向きや、その方のやりやすい入り方があります
  3. 入れた足の裏がしっかり底についてから、もう片方の足を上げる。急がず、一動作ずつ
  4. 浴槽の中で立ったら、一度止まる。それから手すりやふちにつかまってゆっくり座る。中に段差があるタイプは、段差に腰かけてから体を沈めます

出るときも同じです。順番より、つかまって、体を起こしてから、ゆっくりの3つが大事です。

浴槽のまたぎを助ける福祉用具|まずはシャワーチェアと浴槽台

「手すりをつけたいけれど、壁に穴を開けたくない」「浴室が狭い」「壁が古くて工事できるかわからない」——手すりの工事は、この3つの理由で止まることが多いです。そこで病棟では、先にシャワーチェアと浴槽台をすすめることが多くなっています。

シャワーチェア|座って洗う・立ち座りの支えになる

普通の風呂椅子は座面が低く、立ち上がるときに膝と腰に大きな負担がかかりやすいです。座面の高い椅子に替えると立ち座りが楽になり、浴槽に移るときの支えにもなります。座って体を洗えるので、洗っている途中でふらつく心配も減ります。

介護用のシャワーチェアでなくても、ニトリやホームセンターで買える浴室用の椅子で十分なことも多いです。すでに介護保険を利用している方は、対象製品のシャワーチェアなら自己負担1〜3割で買えるので、そちらのほうが買いやすいかもしれません(対象かどうかは、ケアマネジャーさんに確認してください)。どちらにしても、選ぶときに見るのは座面の高さです。

  • 浴室用の椅子の座面は20〜40cmくらいと幅があります。20cm前後の低いものはおすすめできません。立ち上がりがいちばん大変な高さです
  • ふだん座っている椅子は40cm前後です。ふだんから立ち座りが心配な方は、お風呂の椅子も高めにしておくと安心です
  • 入院中・リハビリ中なら、担当の理学療法士に「何cmの座面なら立てそうか」を聞いてみてください。実際に立ち座りを見ているので、その方に合った高さを答えられます

介護用でよく選ばれている一例が、アロン化成の「安寿 折りたたみシャワーベンチ FSフィット」です。座面の高さを変えられて、肘掛けと背もたれがあります。2万円前後です(2026年9月時点)。

浴槽台|浴槽の中に沈めて腰かける台

浴槽台は、浴槽の中に沈めて腰かけるための台です。湯船の中で座る位置が高くなるので、深く沈み込まずに済み、座ったあとに立ち上がるのも楽になります。またぐときに使う物ではなく、浴槽の中で座るときに使います。浴槽の中に収まる大きさの物を選べば高さの調整もできるので、大きく外れることはあまりありません。

一例は、同じくアロン化成の「安寿 浴槽台R あしぴた」です。高さは12〜15cm・15〜20cmなど数種類あるので、浴槽の深さに合わせて選びます。1万5千円前後です(2026年9月時点・高さで変わります)。

バスグリップ|浴槽のふちに挟む、工事のいらない手すり

浴槽のふちに挟んで固定する、取り外しできる手すりです。壁に穴を開けずに、またぐときにつかまる場所を作れます。「手すりがないので浴槽のふちをつかんでいる」という方の、次の一手として向いています。浴槽のふちの幅や形によって付けられないものがあるので、買う前にふちの幅を測っておいてください。

一例は、アロン化成の「安寿 高さ調節付浴槽手すり UST-130N」です。工具なしで浴槽のふちに固定でき、高さを調節できます。2万2千円前後です(2026年9月時点)。

バスボード(浴槽に渡して座る板)は見送る方が多い

浴槽に板を渡して、座ったまま足を入れる道具です。理屈のうえでは安全ですが、板が大きく、毎回の準備が手間で、入るまでの動作がかえって増えるため、入院中に試して見送った方が多い印象です。「またぎがどうしても怖い」という場合の最後の選択肢として考えておくくらいでよいと思います。

介護保険で「買える物」と「借りられる物」
シャワーチェア・浴槽台・浴槽のふちに付ける手すり・バスボードは、介護保険では「購入」の扱いです(肌に直接触れる物なので、レンタルはできません)。対象製品を指定の事業者から買うと、自己負担1〜3割で買えます。床に置く据え置き型の手すりは「レンタル」、壁に付ける手すりは「住宅改修」の扱いです。上限額や条件、手続きは、担当のケアマネジャーさんか福祉用具の相談員さんが案内してくれるので、「浴槽のまたぎが不安と言われた」と伝えて相談してください。認定がまだで急ぐ場合の考え方は退院前に家を整える|買ってよいもの①お風呂用品に、手すりのレンタルと購入の考え方は高齢者の手すりはレンタルと購入どっち?に書いています(制度の出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修に関する告示・通知等」)。

家族は「支える」より「環境づくり」

「またぐ瞬間に自分が支えればいい」と考える家族もいますが、濡れた浴室で大人一人を支えるのは、支える側もケガをしやすく、おすすめできません。家族にしてほしいのは、支えることより環境をつくることです。

  • つかまれるものを用意する:手すりか、浴槽のふちに付けるバスグリップ。なければ浴槽のふちをつかむ。何もつかまらせずにまたがせない
  • 声が届くようにする:入っている間は家族が近くにいて、声をかけられたらすぐに助けに行ける状態にしておく
  • 脱衣所を温める:浴室との温度差を減らすと、ふらつきも減ります
  • 座って着替える:脱衣所にも椅子を置くと、片足立ちの場面が減ります

環境を整えても不安が残る場合は、家族と相談して家の湯船はあきらめる、という選択をする方もいます。家ではシャワーにして、デイサービスの入浴や、家族と一緒に行く温泉でだけ湯船につかる、という方も少なくありません。家で無理に入ることだけが正解ではありません。デイサービスや訪問入浴が使えるかは、ケアマネジャーさんに聞いてみてください。

よくある質問(Q&A)

Q. 浴槽の縁は何cmまでなら安全ですか?

数字の目安はありません。同じ高さでも、股関節と膝の曲がり方と、つかまれるものの有無で結果が変わるからです。退院前なら、病院のスタッフに家の浴槽の写真を見せて、その方に合った判断をしてもらうのがいちばん確実です。

Q. 親が怖がってシャワーだけにしています。そのままでもいいですか?

だめではありません。家ではシャワーだけにして、デイサービスや家族と行く温泉でだけ湯船につかる、と決めている方もいます。一方で、湯船につかりたい気持ちが強い方は多く、浴槽台とシャワーチェアで入れるようになる方もいます。シャワーだけの場合の注意点や、滑り止めなどの道具は高齢者のお風呂の安全グッズ5選のQ&Aにまとめています。

Q. 浴槽台とバスボードは何が違いますか?

浴槽台は浴槽の中に沈めて腰かける台、バスボードは浴槽の上に渡して座る板です。浴槽台は置くだけで準備が少なく、バスボードは毎回の準備が必要です。まず試すなら浴槽台のほうが続けやすい印象です。

Q. 温泉や旅行のお風呂に連れて行っても大丈夫ですか?

場所を選んで一人にしなければ大丈夫なことが多く、旅行のお風呂を楽しみにしている方も多いです。注意点はお風呂の安全グッズの記事のQ&Aに書いています。

まとめ|次にすること

  1. 浴槽の写真(手すりの有無・浴槽の形・浴室の広さ)を撮る。高さを測った数字も添える
  2. 入院中なら担当の理学療法士に、在宅ならケアマネジャーさんに見せて、「またげそうか・何を用意するか」を聞く
  3. 道具はシャワーチェア(立ち座り)と浴槽台(湯船の中で座る)から。手すりは、工事のいらないバスグリップも選択肢
  4. 不安が残れば、家ではシャワーにして、デイサービスや家族と行く温泉で湯船につかる

退院前に家全体を整える順番は、退院前に家を整える|写真で送ってほしい場所と、レンタルか改修かの決め方にまとめています。お風呂だけでなく、玄関や寝室も一緒に確認しておくと安心です。

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