「離れて暮らしていると、何かあってもすぐに助けに行けない」——退院前のご家族から、この不安を本当によく聞きます。中には、その心配から「家に帰るより施設に入ってほしい」とおっしゃるご家族もいるほどです。
とくに最近増えたのが、電話やメールの詐欺の心配です。「詐欺の電話に出ないでね」と繰り返し伝えているご家族もいれば、「詐欺が怖いから、もう電話は使わないようにしている」というご本人もいます。
私自身、入院中の患者さんから「このメール、何だろう?」と相談されたことがあります。内容をうかがうと、明らかに詐欺のメッセージでした。そばに聞ける人がいたから防げましたが、自宅でひとりだったら——と考えると、他人事ではありません。
この記事では、理学療法士(PT)として高齢の方と日々接している立場から、離れて暮らす親を電話詐欺から守る方法を、警察庁が推奨する無料アプリを中心にまとめます。
高齢者はなぜ詐欺に狙われやすいのか|理学療法士の視点
リハビリの現場から見ると、高齢の方が狙われやすい背景には「体の変化」が関係しています。
- 聴力の低下……相手の話を聞き取りきれないまま、つい「はい」と返事をしてしまうことがあります
- 外出の減少……足腰が弱って外出が減ると、社会との接点が電話だけになりがちです。すると、かかってくる電話が「貴重な会話の機会」になり、知らない相手でもつい長く話してしまいます
- 孤立……実は、これが一番のリスクだと感じています。話し相手が少ない方ほど、親切な口調の詐欺電話を疑いにくくなります
つまり、詐欺対策は「電話の設定」だけの問題ではなく、社会とのつながりの問題でもあります。この視点は記事の最後でもう一度お話しします。

「怪しい電話に出ても、切ればいい」が難しい理由
「出てから怪しいと思ったら切ればいい」と思われるかもしれません。しかし、これが高齢の方には想像以上に難しいのです。
- ① 電話中は相手のペースになる……急かされると、冷静に考える余裕がなくなります
- ② 不安をあおられると判断力が落ちる……「口座が悪用されています」「息子さんが事故を」と言われた瞬間、頭が真っ白になります
- ③ 「切って家族にかけ直す」が実は高いハードル……番号を調べて、かけ直して、説明する。この一連の動作は、慌てているときほど難しくなります
- ④ 焦りは転倒のリスクにもなる……「通帳を取ってきて」などと指示されれば、電話に気を取られたまま慌てて移動することになります
④は理学療法士だからこそお伝えしたい視点です。「電話に集中しながら」「焦りながら」「移動する」——この3つが重なると、転倒のリスクは大きく上がります。リハビリの現場でも、緊張や焦りで普段できている動作がうまくいかなくなる場面には、よく出会います。詐欺電話が危険にさらすのはお金だけではなく、体もなのです。

だからこそ、対策の基本は「出てから頑張る」ではなく、「怪しい電話と、そもそも接触させない」ことです。
対策①:警察庁推奨の無料アプリ「詐欺対策 by NTTタウンページ」
まずおすすめしたいのが、警察庁の推奨制度に基づき認定された無料アプリ「詐欺対策 by NTTタウンページ」です。
- 詐欺に使われた可能性が高い番号からの着信を自動で警告・ブロック
- タウンページの約500万件の事業者情報をもとに、誰からの電話か名前を表示(知らない番号への不安が減ります)
- 警察庁の最新の防犯情報がアプリに届く……次々変わる「最新の手口」を自分で追いかけ続けなくていいのが、家族にとって大きな利点です
- 完全無料(NTTタウンページとトビラシステムズが提供)
対応環境の注意点:Android 10以上/iOS 15以上のスマートフォン専用です。iOSはバージョンによって一部機能に制限があり、古いiOSでは警告表示のみで自動ブロックができない場合があります。また、固定電話やタブレットでは使えません(固定電話の対策は次の章で)。
設定手順(iPhoneの場合・3ステップ)
① App Storeで「詐欺対策」と検索してインストール(無料です)

② アプリを開いて「電話アプリの設定」→「有効化する」をタップ

③ iPhoneの「設定」→「電話」→「着信拒否設定と着信ID」で「詐欺対策」をオン

これで設定は完了です。私も自分のスマホに実際に入れてみましたが、操作に慣れていれば3分もかかりませんでした。親御さん一人では戸惑うかもしれませんが、帰省したときにご家族が一緒にやってあげれば、すぐに終わります。
※アプリの仕様は変わることがあります。最新情報は公式ページでご確認ください。
対策②:固定電話には「無料サービス」と「防止機能付き電話機」
高齢の親世代は、固定電話が主役の家庭も多いですよね。アプリが使えない固定電話には、2段階の対策があります。
まず無料でできること:ナンバー・ディスプレイの無償化
NTT東日本・西日本は、特殊詐欺対策として70歳以上の契約者(または70歳以上と同居する契約者)のナンバー・ディスプレイとナンバー・リクエストを無料にしています。「誰からかかってきたか見てから出る」「非通知には出ない」ができるだけでも、大きな前進です。まだ申し込んでいなければ、まずここからどうぞ。
より強力に:迷惑電話防止機能付き電話機
さらに安心なのが、迷惑電話対策機能を搭載した電話機への買い替えです。着信前に「この通話は録音されます」と相手に自動警告する機能や、迷惑電話番号を自動でブロックする機能があり、詐欺グループは録音を嫌うため、警告の段階で切れることが多いと言われています。
対策③:スマホを持っていない親には
アプリを使うにはスマートフォンが必要です。もしまだ固定電話だけなら、これを機に、シニア向けの使いやすいスマホを検討するのも一つの方法です。家族と写真やメッセージをやり取りできるようになれば、それ自体が「つながり」となり、詐欺の入り込む余地を減らしてくれます。
たとえば下で紹介する「らくらくスマホ Lite」は、シニア向けの見やすい画面ながら通常のAndroidスマホ(Playストア対応)なので、この記事で紹介した警察庁推奨アプリもそのまま入れられます。「使いやすいスマホ+無料の詐欺対策アプリ」の組み合わせが作れます。
いちばんの詐欺対策は「家族との会話」
最初にお伝えした通り、詐欺に狙われやすい背景には「孤立」があります。どんなに道具で守っても、話し相手がいない寂しさまでは埋められません。
- 定期的に電話する……「元気?」の一言だけでも。家族との会話が多い方は、怪しい電話への免疫も強くなります
- 合言葉を決めておく……お金の話が出たら「必ず一度切って、この番号にかけ直す」を家族のルールに
- 留守番電話を活用……「知らない番号は留守電にまかせて、出ない」でOKと伝えてあげてください
⭐ PTからひとこと
リハビリでも「社会参加」は大きなテーマです。人と話す機会が多い方は、心も体も元気です。詐欺対策のためのお電話が、そのまま親御さんの元気のもとになる——一石二鳥だと思って、ぜひ今日、一本かけてみてください。
よくある質問
Q. 親がアプリを入れるのを嫌がります
Q. 固定電話しかありません。買い替えは必要?
Q. 詐欺電話の見分け方はありますか?
Q. 認知症の親の詐欺対策はどうすればいい?
Q. もう怪しい電話が来ています。どこに相談すれば?
まとめ|今日からできるチェックリスト
📝 親を電話詐欺から守るチェックリスト
- ✅ スマホに警察庁推奨の無料アプリを入れる(帰省時に家族がその場で)
- ✅ 固定電話はナンバー・ディスプレイ無償化(70歳以上)を申し込む
- ✅ 必要なら迷惑電話防止機能付き電話機に買い替える
- ✅ お金の話が出たら「一度切ってかけ直す」を家族の合言葉に
- ✅ そして何より、定期的に電話して「つながり」をつくる



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