「退院が決まりました。家の準備は、何をすればいいですか?」——退院前の家族指導で、いちばん多い質問です。手すり、段差、トイレ、お風呂。どこから手をつければいいのか分からず、片っ端から直そうとして疲れてしまうご家族を、何度も見てきました。

退院まで2週間。手すりは付けたほうがいい?お風呂は?全部直す時間もお金もないんだけど…

全部はいりません。順番があります。そして私たちは家を見に行けないことが多いので、まず「写真」を送ってもらえると、そこから提案できるんです
この記事では、病院勤務の理学療法士が、退院前の家族指導で実際に伝えている家を整える順番と、写真で送ってほしい場所、そしてレンタルにするか改修するかの決め方をまとめます。場所ごとの細かいグッズは、それぞれの記事にリンクしています。
先に結論
①順番は寝室→トイレ→玄関→食卓→お風呂。まず「寝室からトイレに行けるか」 ②見に行けないので、写真を撮って送ってほしい場所が7つある ③手すりは邪魔にならなければ改修でよい。部分的に使う・回復が見込めるなら、まずレンタル ④手作りの手すりは、安全性だけ業者に確認を

退院前に整える順番|朝起きてから夜寝るまで
家族指導で私が最初に聞くのは、「朝起きてから夜寝るまで、親御さんはどこを通りますか?」です。家の中を一日の流れでたどると、整えるべき場所と順番が自然に決まります。
そして、最優先はいつも同じです。寝室からトイレまでの動線。食事ももちろん大切ですが、「まずトイレに行けないと困る」という方がいちばん多いのです。夜中に一人でトイレに行けるかどうかで、退院後の生活の形が決まると言ってもいいくらいです。
- 寝室——ベッドの高さ、起き上がる側に立ち上がる空間があるか
- トイレへの動線——廊下の距離、段差、夜の明かり、途中でつかまれる所
- 玄関・外出——上がり口の段差、靴を履く場所、外の道。通院や散歩をするなら、ここまで
- 食卓——椅子に肘掛けがあるか、座面の高さは合っているか
- お風呂——浴槽のまたぎ、洗い場の滑り、扉の開け閉め
順番は目安です。手術した場所や、家の間取りで変わります。ただ、「上から順に整えて、時間切れになったら下は退院後に回す」と考えると、退院までにやることがはっきりします。
PTが「写真で送ってほしい」7か所
理学療法士が退院前に自宅を見に行くこと(家屋調査)はあります。ただ、頻繁ではありません。その代わりに、ご家族に家の写真をお願いすることは本当によくあります。見られるなら確実に見ておきたいポイントがあるからです。
写真があれば、「ここに手すりがあるといい」「この段差は踏み台で足りる」と提案できます。そして、実際に合う物を選ぶのは、福祉用具の事業所に頼むことが多いです。まず送ってほしいのは、この7か所です。
| 場所 | 撮ってほしいもの | PTが見ているところ |
|---|---|---|
| ① 寝室のベッドまわり | ベッド全体と、起き上がる側の床 | 高さ、柵の有無、立ち上がる空間 |
| ② 寝室からトイレまでの廊下 | 寝室の出口から、トイレの扉まで | 距離、段差、夜の明かり、つかまる所 |
| ③ トイレの中 | 扉を開けた正面と、便座の横 | 便座の高さ、扉の向き、手すりを付ける壁 |
| ④ 玄関の上がり口 | 段差を真横から、靴を履く場所 | 段の高さ、腰かける所、つかまる所 |
| ⑤ 玄関の外 | 玄関ドアから道路まで | 外の段差、坂、砂利、雨の日の滑り |
| ⑥ 食卓の椅子 | 椅子を横から | 肘掛け、座面の高さ、動きにくさ |
| ⑦ お風呂 | 浴槽を横から、洗い場全体 | またぎの高さ、床の滑り、つかまる所 |
📷 写真を撮るコツ
段差は真横から、部屋は全体と近くの2枚。それだけで分かることが増えます。可能なら、親御さんの身長が分かる物(椅子や杖)を一緒に写してください。
場所ごとの整え方は、それぞれの記事に詳しくまとめています。
- ▶ 高齢者の寝室を安全にするグッズ5選|夜の転倒対策
- ▶ 高齢者のトイレの転倒対策|手すり・補高便座の選び方
- ▶ 高齢者の玄関の転倒防止グッズ5選
- ▶ 高齢者のお風呂の安全グッズ5選|転倒とヒートショックを防ぐ
- ▶ こたつ・床から立ち上がれないときの対策|リビングの転倒予防
- ▶ 高齢者の夜間転倒を防ぐ5つの対策|夜中のトイレが危ない理由
レンタルか改修か|PTの決め方
「手すりは工事で付けるべき?それとも借りるだけでいい?」もよく聞かれます。私の判断は、次の3つです。
- 設置して邪魔にならないなら、改修(工事)でよい——廊下やトイレの壁の手すりは、付けて困ることがほとんどありません
- 部分的にしか使わないなら、まずレンタル——置き型の手すりやベッド柵は、レンタルで試してから決められます
- 機能の回復が見込めるなら、レンタル——リハビリで歩けるようになると、要らなくなる物が出てきます。家を改修すると、元に戻せません。回復の途中なら、借りて様子を見るほうが後悔がありません
レンタルの仕組みと費用の目安は杖や歩行器はレンタルと購入どっち?介護保険で借りられるものに、手すりをどこに付けるかは高齢者の手すりはレンタルと購入どっち?必要な3箇所にまとめています。
手作りの手すりは、正直「うーん」となります
家族が張り切って直しすぎて困った、という話は、実はあまり聞きません。ただ、ご主人や息子さんがDIYが好きで、手すりや踏み台を自分で作ったという話は、何度も聞いたことがあります。
気持ちはとてもうれしいのですが、正直に言うと「作ったから大丈夫だよ」と言われても、安全性が分からないので「うーん……」となってしまうのが本音です。手すりは、体重をかけた瞬間に外れたら意味がありません。作ること自体は否定しませんが、固定の強さだけは、福祉用具の事業所に見てもらってください。
借りるもの・買ってよいもの
私の基本は「まずレンタル」です。そのうえで、レンタルできない物・安い物は買ってもよいと思っています。ここで1つ、読者の方に損をしてほしくない注意があります。
⚠ お風呂用品は、介護保険で1〜3割負担になります
シャワーチェアや浴槽内の滑り止めマットは、介護保険の「特定福祉用具購入」の対象です。要介護・要支援の認定がある方は、ケアマネジャーか福祉用具の事業所に頼んで買うと、自己負担が1〜3割になります(年10万円まで)。ネットで自分で買うと全額自費です。たとえば2万円のシャワーベンチなら、1割負担で2千円ほどになる計算です。認定がある方は、先にケアマネに相談してください。
レンタルで借りるもの(ケアマネに相談)
置き型の手すり(玄関・トイレ・ベッドの横)、ベッド柵、4点杖は、介護保険のレンタルの対象です。買う前に、ケアマネジャーに「退院までに借りたい」と伝えてください。入院中なら、病院の相談員やリハビリスタッフが手配に関わることも多いです。
買ってよいもの①|お風呂用品(認定がない方・急ぐ方向け)
お風呂用品は、肌に直接ふれて傷みやすいため、基本的にレンタルできません。認定がない方、認定待ちで退院に間に合わせたい方は、ネットで用意する選択肢もあります。
アロン化成 安寿 折りたたみシャワーベンチ
病院や施設でも定番のシャワーチェア。肘掛けと背もたれがあり、立ち座りが安定します。使わないときは折りたためます。
価格の目安:2万円前後(FSフィット)(2026年9月時点・ネットで自費購入の場合)
パナソニック シャワーチェア ユクリア
座面がやわらかく、ひじ掛けが跳ね上がるタイプ。横から座りやすいので、またぐ動きがつらい方に向いています。
価格の目安:1万5千〜2万円前後(2026年9月時点・ネットで自費購入の場合)
アロン化成 安寿 吸着すべり止めマット
浴槽の中に敷く滑り止め。またぐときに足元が滑らないだけで、安心感が大きく変わります。
価格の目安:4千〜5千円前後(2026年9月時点・ネットで自費購入の場合)
買ってよいもの②|安価な滑り止めマット
廊下やトイレの前、ベッドの横に敷く屋内用の滑り止めマットは介護保険の対象外ですが、高い物ではありません。裏が吸着するタイプなら、ずれて逆につまずく心配が少ないです。
屋内用の吸着タイプの滑り止めマット
「おくだけ吸着」のように床に貼り付くタイプを。毛足が長いマットは、つま先が引っかかるので避けてください。
価格の目安:4千〜5千円前後(60×300cmのロングマットの場合)(2026年9月時点・ネットで自費購入の場合)
買ってよいもの③|肘掛けのある椅子
食卓や居間で過ごす椅子は、肘掛けがあって、座面が少し高め(膝の高さくらい、目安40〜45cm)のものが、立ち上がりやすくて安全です。キャスター付きは動いて危ないので避けてください。
肘掛け付きで座面が高めのダイニングチェア
座ったときに膝が90度より少し伸びる高さが目安。肘掛けに手をついて立てると、腰やひざの負担が減ります。
選び方:商品ページの「座面高」の表記を必ず確認(目安40〜45cm)。肘掛けあり・キャスターなしを選んでください
価格の目安:7千〜3万円前後(作りによって幅があります)(2026年9月時点・ネットで自費購入の場合)
外に出るなら|靴と杖
通院や散歩まで考えるなら、家の中を整えたあとは靴と杖です。退院時にリハビリで使っていた靴が「病院の中だけ」の靴だった、ということも多いので、外を歩く靴は別に見直してください。選び方は高齢者の靴のおすすめ6選|履きやすく転倒予防になる靴とT字杖おすすめランキング6選|高齢の親に合う一本にまとめています。
よくある質問
Q. 退院までに全部は間に合いません。最低限は?
寝室からトイレまでの動線と、ベッドまわりです。ここだけ整えれば、あとは退院後にレンタルで足しながら調整できます。
Q. 写真を送ったら、本当に見てもらえますか?
リハビリの担当者か相談員に「家の写真を撮ってきました」と伝えてください。見て提案するのは、私たちにとってもありがたいことです。
Q. 改修の費用はどのくらい?
介護保険の住宅改修の制度があり、条件は市区町村で異なります。具体的な金額はここでは書かず、ケアマネジャーと福祉用具の事業所に相談してください。
この記事で書かないこと
改修費用の具体額や、業者の選び方は書いていません。同じ「手すり1本」でも、壁の中に固定できる下地があるか、段差の高さ、廊下やトイレの広さ、使う人の状態で工事の内容が変わり、介護保険の住宅改修の扱いも市区町村で異なるためです。業者は、ケアマネジャーが地域で普段組んでいる福祉用具の事業所に頼むのが確実なので、相談員・ケアマネと一緒に決めてください。
まとめ
退院前の家の準備は、全部やる必要はありません。寝室からトイレの動線を最優先に、写真を送って提案をもらい、迷ったらレンタルから。この3つで、退院後の暮らしはかなり安全になります。
退院までの流れは入院中のリハビリって何をするの?、お金のことは親の入院費用はいくら?、仕事との両立に迷っている方は親の介護で仕事を辞めるべき?もあわせてどうぞ。気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。それではまた、お大事に!


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